庵野監督から尋常じゃないオーラを感じた
映画『シン・ゴジラ』は7月29日より全国東宝系にて公開
「エヴァンゲリオン」シリーズの庵野秀明が脚本・総監督を務めた超大作『シン・ゴジラ』がいよいよ公開となる。緊迫感に満ちた物語はどのように生み出されたのか? ゴジラの脅威に立ち向かう内閣官房副長官の矢口蘭堂を演じた長谷川博己が語った。
ゴジラは日本の宝!
Q:「ゴジラ」シリーズ最新作に主演されたお気持ちを聞かせてください。
ゴジラは日本の宝ですからね。こんなすごい作品に主演できるのは大変名誉なことなので、すごくうれしかったです。昔から『ゴジラ』シリーズは観ているんですけど、ユーモアを感じるゴジラ作品より、シリアスなタッチの作品のほうが好きでしたね。特に、1954年の初代ゴジラが好きでした。今回の『シン・ゴジラ』もシリアスな方向だったので、余計うれしく思いました。
Q:本作のゴジラの造形は、今までにない怖さだと思ってしまいました。
これまでに登場したゴジラの、いわゆるチャームポイントがなくなりましたよね。本当に、ただ恐ろしい。自然から生まれ出た感じではないですね。自然発生というよりは化学的なもの、ケミカルな感じがすごくします。
Q:カヨコ・アン・パタースン米国大統領特使を演じた石原さとみさんが、「撮影中はプレッシャーで苦しかった」とおっしゃっていましたが、長谷川さんはいかがでしたか?
僕は心地よい緊張感の中で現場にいることが楽しくて、特にプレッシャーを感じることはなかったです。石原さんは葛藤や孤独感を抱えていたと言っていたが、撮影しているときはわからなかったんです。そういったことはご本人があまり見せませんでしたからね。お互い役や芝居について話すことも、あまりしなかったですし。どちらかというと、庵野総監督と樋口(真嗣)監督(監督・特技監督)がどういったものを求めているのか、探るという感じでした。
大物ぞろいの撮影現場で有意義な時間
Q:会議の場面など、ワンシーンを何度も撮り直していたと伺いました。どのくらい時間をかけて撮影したのでしょう?
同じシーンを8時間くらい撮り続けることがありました。会議室のセットの中で、8台くらいのカメラを使って、色んなアングルから撮影されていましたね。一方から撮り終えたら、違う壁を取り外したりして、また撮るというのを繰り返すのですが、一つ一つのアングルにこだわられていましたので、だいぶ時間がかかったのを覚えています。
Q:かなり特殊な撮影現場だったんですね。
あんな撮影現場はなかなかないですよ。大御所の俳優さんが何人も出ていらっしゃるので、休憩中やセット替え中にみなさんのお話を聞いたりしていましたね。それこそ劇団出身の方々とか、映画一筋でやってこられた方とか、いろんな先輩方が過去のエピソードなどを話してくださるのがとても面白くて、僕にとっては有意義な時間でした。
Q:政治家役の皆さんのまくしたてるようなやりとりが印象的でした。難しい政治用語が続いて何度もNGが出てしまった、なんてことはありませんでしたか?
まあ、何かの拍子に引っ掛かってしまうこともありましたけど、誰かがミスったら、そのミスをカバーしてくださる方がいて、常に助け合っていました。このお話のテーマでもあるチームワークが、役者同士にもあったように思います。あと、同じシーンを何十回も撮っていますから、多少かんでしまっていても、うまく編集してくれるのではと思ったりして。たぶん、「今、かんだのにOK出ちゃったけど、また撮るから大丈夫!」みたいな気持ちが、芝居に集中できる良い環境を作っていただいたのではないでしょうか。
Q:なるほど、気持ちに余裕が生まれるというか(笑)。
そう、「今のはダメだったけど次でやればいい」という余裕がありました。逆にリラックスできて良かったような気がします。これ一発で! と思ってしまうと、緊張してしまってミスしそうですから(笑)。
ものを生み出す人間には闇がある
Q:庵野総監督の作品だけに、ビジュアルやストーリーの細部にまでこだわりがあるように感じました。
こだわりを持たれるのは、すごく大事なことだと思います。台本を読んだだけで、庵野総監督の細やかさが伝わってくる。役者は台本を完全に理解して、それが血肉にならなければならないと思っているので、何回も何回も読み直します。最初に読んだときはそこまで深さがわからなかったけど、読み込んでいるうちに一字一句に色んな意味があって、かなり計算されて作られていることがわかりました。それと、監督は画作りが完全にイメージできているんです。カメラマンさんなど撮影スタッフへの指示も明確で、頭の中にあるものを確実に作り上げるのがすごいと思いました。
Q:庵野総監督とお話しされたときの印象は?
意外と明るい方ですが、現場では人が変わった感じがしましたね。何かを生み出す人というのは、その反面、闇のようなものがまとわりつく。ちょっと尋常ではない雰囲気を感じました。そういった闇が垣間見えるからこそ、ああいった作品が生み出せるのでしょうね。撮影現場にいるときの庵野総監督の異様な姿には、近寄りがたいものがありました。どこかのネジが外れているような、特殊なオーラをまとっている。何かを作り出す人たちは当然まとっているオーラだと思います。それは役者も一緒かもしれないと、はたから見ていて思いました。
Q:長谷川さんご自身も、自分が尋常ではなくなっている瞬間を意識したことはありますか?
自分がおかしくなっているなと感じるときはあります。やはり、別の誰かを演じるのって、異常なことだと思うんです。どこかが狂っていないとできないのかもしれない。だから、役に入っていないときの普段の自分は、ニュートラルに戻しておきたいんです。また狂わないといけないときが来るから……。
取材・文:斉藤由紀子 写真:金井尭子