文=金田裕美子/Avanti Press
一見ディズニー映画かピクサー!?
実はR-15な『ソーセージ・パーティー』
最初におことわりしておきます。『ソーセージ・パーティー』という名の楽しそうなアニメーションが公開されるから、それに合わせて「いろんなソーセージを作って食べるソーセージ・パーティーをやっちゃおう!」というのが今回の(浅はかな)発想でした。予告編からちょっとエッチな雰囲気が漂っていることは感じつつ、メニューのヒントをもらおうと本編を観に行ってみると……。「結構エログロですよ」と聞いてはいたのですが、ここまでお下品、おゲレツ(死語)とは! エロやらグロやらドラッグやら、あの『テッド』がとってもお上品な映画に思えてしまう、とんでもない映画だったのであります。
女子高生も見に来ているという大ヒット『ソーセージ・パーティー』
スーパーマーケットの陳列棚に並んでいるソーセージのフランクとホットドッグ・バンのブレンダの夢は、いつか一緒に買われて合体する=ホットドッグになること。でも天国だと思っていた店の外の世界には、残酷な現実が待ち受けていて……というお話が、ディズニー映画かピクサーかというような美しく楽しい歌と共に始まり、一見ほのぼのとした『トイ・ストーリー』の食べ物版のよう。これ、作曲を手がけたのは、ホントに『美女と野獣』などの名匠アラン・メンケン!(なにやってんの、アンタ) しかしこのあと、映画はどんどんお子様には見せられない方向に突き進んでゆくのです。
R‐15指定で都内1館だけの上映スタートというのはまあ仕方がないでしょう。その過激ぶりが話題を呼び、かなりヒットしているようです。しかし、この映画をネタにソーセージ・パーティーをやるなんて、わたくし人格を疑われそう……。ま、もうこの映画の事は気にせず(いいのか?)、ソーセージ・パーティー強行です。
アメリカ独立記念日といえばホットドッグ!
映画にもめっちゃ登場しています
メニューはまず、フランクとブレンダにちなんでホットドッグ。ふたりが「明日は重要な日だね」と言っていたように、アメリカで独立記念日といえばホットドッグ。「サイエンティフィック・アメリカン」誌によると、この日だけでなんと1億5000万個が食されるとか。この日に限らず、野球場や街角のホットドッグ・スタンドでもおなじみの国民食だけに、『フィールド・オブ・ドリームス』や『恋におちて』など、映画にもとってもよく登場します。たいていはチープなファストフード扱いのホットドッグですが、今回は頑張ってソーセージを手作りしてみます。
さらに。せっかく手作りするのなら、ちょっと大きめの粗挽きソーセージも作っちゃお。ヨーロッパ映画や絵本などに出てくる、あの何個もつながったソーセージは、幼少時からの憧れだったのであります。さっそく必要なものを調達します。
『ソーセージ・パーティー』のブレンダとフランク
まずはホットドッグ用の細いソーセージ作ります
たとえ肩がじんじんしてもぷりっぷり目指して!
ソーセージ作りに欠かせないものといえばまず、腸。料理用語では「ケーシング」というらしい。人工的に作られたケーシングもありますが、今回は細いソーセージ用には細くて薄い羊の腸、太めのソーセージには羊より厚くて丈夫な豚の腸を使います。どちらも塩漬けの状態で売られているので、必要な長さをぬるま湯に浸けてふやかし、塩抜きをしておきます。
左の写真の、左が羊、右が豚の腸。右の写真は腸を洗っているところ
次に、ソーセージの中身。ホットドッグに使う細いソーセージは豚の細挽き肉、そのままバリっと食べる太いほうは粗挽き肉を使います。この挽き肉を腸に詰めるスタッファーも必要です。ごっつい本格的な腸詰め機、水鉄砲みたいに挽き肉を押し出す簡単なソーセージメーカー等も市販されておりますが、今回使用したのは絞り袋。生クリームの絞り袋と変わらないように見えますが、もっと厚く頑丈にできています。口金もソーセージ用、フランク用と太さの違うものを2種用意しました。
細いソーセージからいってみます。ソーセージ作りの本を見ると、肉は新鮮なほど良いので、できれば自分で挽く、とありますが、挽く機械がないのでお肉屋さんで挽き肉を購入。肉に対して2%ほどの塩、砂糖、スパイスを加えます。ここはお好みですが、粗挽き黒こしょう、オールスパイス(シナモンとクローブ、ナツメグと足したようないい香り!)、ナツメグ、セージを使いました。さらに肉の量に対して20%の氷水を投入。ソーセージ作りのポイントは、とにかく肉の温度を上げない、ということのようです。ここを守らないと挽き肉がうまく結着せず、ボソボソになってしまうらしい。ぷりっぷりを目指すわたくしは、10℃以下に保つようにという教えをしっかり守りながら肉を混ぜます。
この段階ですでにソーセージっぽいスパイスのいい香りがしてきます。しかし。つめてえーーー。混ぜていると粘りが出て重くなってくるうえに、冷たさが指先から腕、肩のほうまでじんじん伝わってきます。うううー。でもぷりっぷりをゲットするためにじんじんを我慢して頑張ります。ようやく白っぽくなめらかになり、混ぜは終了。ハンバーグを作る時のようにタネをボウルにぺちぺち打ちつけて空気を抜きます。
いよいよ腸にタネを詰めます。絞り袋に口金をセットし、ふやかした羊の腸を装着していきます。この時、口金に少量の油を塗っておくと滑りがよくなります。あったりまえのことですが、口金を先に絞り袋にセットすること。これを忘れたマヌケな人は、せっかく装着した腸を外してまた最初からやり直すはめになります(私のことだ)。
つめてぇえええー(左の写真、よく見ると氷入ってます!)
絞り袋になるべく空気が入らないようにしながらタネを入れます。口金の先までタネを押し出し、空気が入らないように注意しながら腸の先を結びます。絞り袋をぎゅっと絞ると、にゅるにゅるっとソーセージができてきます。キャー、なんか快感。でもねじれそうになったり途中で太くなったり、まっすぐ均等に充填するのはなかなか難しい。2本の手では難しいので、「口金管理係」と「絞り係」の2人がかりで充填を終えました。
やってみたかったとぐろソーセージ!
これを半分に折ってねじり、さらにその半分、半分とねじって形成していきます。腸にタネを詰めすぎるとこの時破れてしまうので、あまりパンパンにならないように加減したほうがいいようです。もう1本できた短いほうは、ねじらずにぐるぐる巻きに。空気が入ってしまった部分は、針で穴を開けて空気を抜いておきます。ペーパータオルなどで水気を拭き取り、1時間ほど乾燥させます。こうすることで皮がパリッとなるそうです。ここでスモークをかけたり1晩寝かせたりすると、さらに美味しさが増すのですが、私はすぐ食べたい。いま食べたい。さっさと茹でてしまいます。
茹でる際に重要なのが、これまた温度。沸騰したお湯でグラグラ茹でると破裂しやすいばかりか旨み成分が逃げ出してしまうそう。75~80度のお湯でじっくり20分ほど茹でます。ソーセージって、意外とデリケートなんですね。茹で上がったらバンに挟んで、ホットドッグの出来上がり。フランクとブレンダ、夢がかなってよかったね(食べられる運命だけど)。
フランクとブレンダ、合体!
イタリアのサルシッチャ風ソーセージ
詰めるのは豚の腸!
もう一種、粗挽きソーセージは、挽き肉ではなく塊の肩ロースを包丁で叩いて使います。叩いているうちに肉が包丁にくっついて重くなり、こちらも結構重労働。脂身の一部は別にとっておいて、細かい四角に切ります。挽き肉に塩、砂糖、スパイス、氷水を投入。今度はにんにく、パセリ、オレガノも加えて、イタリアのソーセージ、サルシッチャ風にします。
再び肩までじんじんさせながら頑張って混ぜたのち、タネを今度は豚の腸に詰めていきます。口金も太いフランク用のものにチェンジ。細くて薄い羊の腸に比べて、豚の腸は厚くて丈夫。破れそう! という心配はないのですが、粗挽きのほうは絞り袋から押し出すのにさらに力が必要で、絞り係は途中休憩も入れながらなんとか充填し終えました。ご協力感謝。こちらもしばらく乾燥させたのち、75~80度のお湯で茹でます。
つながったまま茹でます
『深夜食堂』の常連客ヤクザの竜の大好物
タコさんウィンナーの足は8本
『続・深夜食堂』全国にて公開中
(c)2016 安倍夜郎・小学館/「続・深夜食堂」製作委員会
茹でる前は赤く肉肉しかった粗挽きソーセージも、茹でると白っぽくなります。フライパンで焼いてちょっと焦げ目をつけてみましたが、なんか色が地味……。というわけで登場していただいたのは、派手といえばこの人、おなじみの赤いウインナー。決まったメニューのない「めしや」のマスターを小林薫が演じる『深夜食堂』には、常連客のヤクザ、竜(松重豊)の好物として「赤いタコさんウインナー」が登場します。こちらは市販の赤いウインナーを使用。ウインナーの下半分を8つに切り(タコだからね)、フライパンで炒めると、あーら不思議、足がくるんとなってタコさんウインナーの出来上がり。
タコ軍団参上!
忘れちゃいけない『Mr.Boo! ミスター・ブー』
ホイ三兄弟の腸詰ヌンチャク
さて、アメリカ、イタリア、日本代表のあとは、中華のソーセージに登場していただきましょう。ぷりぷりというよりはサラミっぽく、甘くて八角などの中華スパイスが効いた腸詰。こちらも中華食材屋さんで市販のものを買って参りました。そういえば、70年代の終わりに日本でも大ヒットした香港のコメディ・アクション『Mr.Boo! ミスター・ブー』では、私立探偵のマイケル・ホイが、つながった腸詰をヌンチャク代わりにして悪漢と戦ってたっけ。どうしてるんだろう、ホイ三兄弟……などと考えつつ、フライパンで腸詰を弱火でじっくり焼いて斜めに切り、長ネギスライス、豆板醤を添えます。
腸詰めで遊んではいけません
アーユーレディ?
レッツ・ハブ・ア・ソーセージ・パーティー
ソーセージ・パーティー、準備完了です。ソーセージといえばこれは欠かせないでしょ、というわけでまずビールで乾杯! 細いソーセージは本当にスタンダードな味です。ホットドッグも「あれっ、これ自分で作ったんだっけ」と途中で思い出したほど普通のソーセージに出来上がっておりました。粗挽きソーセージは皮がパキっとしっかりしています。お味はイタリアーンな感じで、ワインも合いそう。何年ぶりかで食べたタコさんウインナーは(数十年ぶり?)、この懐かしい感じがたまりません。というか、子どもの頃に食べた赤いウインナーより数段美味しくなっているような。中華の腸詰は鉄板の美味しさでした。うおー、紹興酒飲みたい(そんなのばっか)。
ソーセージ作りなんて大変そう、と思っていましたが、温度管理と挽き肉を混ぜる時の肩じんじんさえ我慢すれば意外に簡単。発色剤や着色料、保存料などの添加物が使われていることの多い市販のソーセージと違って自分で作れば安心だし、何よりもあのつながったソーセージを独り占めできるのです! これからのパーティー・シーズン、誰にでも喜ばれそうなソーセージ作りに挑戦してみてはいかがでしょう? あの『ソーセージ・パーティー』から無理やりこんな前向きな結論を引き出してみました。
【世界のソーセージの材料】
《ホットドッグ》豚挽き肉、塩、砂糖、スパイス(黒こしょう、オールスパイス、ナツメグ、セージなどお好みで)、氷水、ホットドッグ・バン、ケチャップ、マスタード
《サルシッチャ風粗挽きソーセージ》豚肩ロースの塊、塩、砂糖、好みのスパイス、にんにく、パセリ、オレガノ
《タコさんウインナー》市販の赤いウインナー
《腸詰》腸詰、長ネギ、豆板醤
《映画『ソーセージ・パーティ』っぽい雰囲気を盛り上げる小道具(以下は映画を観て理解してね。お上品な人には勧めないけど)》
ハニーマスタード、ベーグル、ラヴァッシュ(中東の薄焼きパン)、タコス、ザワークラウト、使い捨てビデ ※ドラッグはダメ。ゼッタイ