名古屋グランパス新たな“闘莉王門下生”誕生の予感である。誰かと言えば、古林将太だ。
J1の2ndステージ第12節・ガンバ大阪戦の前半終了間際のことだ。田中マルクス闘莉王が古林の肩を引き寄せ、文字通り捕まえるようにしてアドバイスを送った。「もうちょっと前にプレッシャーをかけていいよって言われたんです。オレが相手のサイドハーフのところにプレッシャーをかけろと」(古林)。たったそれだけのことだが、たったそれだけのアドバイスを送るのであれば、ただ声をかけるだけでいい。何が言いたいかというと、恐らく古林は闘莉王に気に入られているのではないかと思うのである。
振り返れば闘莉王が名古屋に戻り、最初のトレーニングに臨んだ日、いきなり「オッサン!」というニックネームを頂戴していたのが古林だった。記者会見で「技術はすぐに把握できるけど、性格は時間がかかる」と語っていた闘将は、少々のイジリ方ではめげない古林の性格はすぐに見抜いたのか、「お前オッサンだな。オレより年上みたいじゃないか!」といきなり攻め込んだ。
その後の闘莉王は事あるごとに古林をイジるようになり、「最近では逆に敬語の時もあるんです。『古林さん』って。びっくりしますよ(笑)」とさらに一段階ステップを上がった模様。「コバ!」と呼んで反応がないと、「お前の他にどこに古林がいるんだバカタレ!」と怒鳴られたりもするが、気にかけている選手にしかこうした言い方はしない。間違いなく、古林のキャラクターは闘莉王のツボにはまったのだ。
さらに第11節アルビレックス新潟戦ではポジション的に隣り合わせとなり、練習中のコミュニケーションも増えた。逆サイドに行ったG大阪戦でさえ、前述の通りだ。「闘莉王塾だね」と言うと、「良い感じっす」と古林もまんざらではない。そしてG大阪戦の翌日である日曜日、リカバリーを終えた二人はついに個人レッスンにまでその関係を深めたのである。
「教えてもらったのはポジショニングのことですね。あとは昨日言われたようなことを、作戦ボードを使って細かく教えてもらえました。言われなくなったら終わりだと思っているので、歓迎ですよ。いや、何も言われないくらいうまくなりたいけど、僕もまだまだですから。トゥさんの言葉はヒントになることしかないし、タメになることばかり。何で?と疑問に思うところがまったくないです。これを受け流すか、吸収するかは今後の自分の成長に関わると思う。的確すぎて自分の意見なんて言えないけど、それも大事だから意見も言えるようになりたいです」
自分発信でやっていきたい。これは古林が最近よく口にするようになってきた言葉だ。使われるタイプの選手ではあるが、自らの動き出しで仲間を動かしたいという欲求は日に日に高まってきている。現在は明確な判断基準も用意されていることで、逆にアドリブを利かせる“遊び”の部分も生じてきた。一時期はサイドハーフとして出番を失っていたが、本職として勝負できる環境が整ったことも古林の舌を滑らかにする。
「監督に言われたことをしっかりやりつつ、自分の良さを消さずにやっていきたいですよね。今季の中でも成長していないとおかしいし、ポジションは変わっていてももっとできるし、もっと走りたい。トゥさんにも甘えてばかりではダメで、自分発信で逆に要求できるようになりたいです」
今の古林に右も左も関係ない。サイドバックとしての視界はいま、今季最大に開けている。
【今井雄一朗(赤鯱新報)】いまい ゆういちろう。1979年生まれ。2002年に「Bi-Weeklyぴあ中部版」スポーツ担当として記者生活をスタート。同年には名古屋グランパスのサポーターズマガジン「月刊グラン」でもインタビュー連載を始め、取材の基点を名古屋の取材に定める。以降、「ぴあ」ではスポーツ全般を取材し、ライターとしては名古屋を追いかける毎日。09年からJリーグ公認ファンサイト「J’s GOAL」の名古屋担当ライターに。12年、13年の名古屋オフィシャルイヤーブックの制作も担当。