伝えたかったあの人の「喜ぶ瞬間」 ゴールを決めた山形FW林陵平が向かった先は…|コラミィ× スポーツ

私の好きな漫画の一つに曽田正人さんの『capeta』(カペタ)という作品があります。

主人公の平勝平太(カペタ)が、ライバル達と闘いながら、ジュニアカートを経てプロレーサーを目指していくモータースポーツの世界を描いた作品です。資金面などで厳しい環境に身を置かれるカペタですが、その逆境を乗り越える姿と「コイツならきっと何かやってくれる」という人物像がしっかりと描かれていて、非常に引き込まれる作品です。

さて、この作品の中のあるエピソードが個人的にすごく好きなのでちょっと紹介させてください。

幼少時代、仲間とともに「チームカペタ」を作り、父が作ったボロボロのカートに乗ってジュニアカートのレースに初参戦したカペタ。決勝レースでは、スタートで出遅れて相手のブロックに苦しめられながらも、終盤で追い越して初勝利を挙げました。ですが、前に誰もいないコースで思い切り走れるようになったのは相手を抜いてトップに立ったゴール直前。「本当はもっともっと走りたかったのにもう終わってしまった」と、レースで初めて勝ったにも関わらず、皆の前で浮かない表情を見せてしまいます。

そんな中、カートを作るために協力してくれた会社の社長がカペタに向けてこう話します。

「一度にそんなよくばるもんやないで。いろいろできんかった事は次にやればええんや。オマエは勝負に勝った。勝ったもんが何よりまずせなならんことは、大よろこびすることや」

ウズウズしながらカペタを見守っていた仲間達と大はしゃぎしながら喜ぶカペタ。この内の数人の仲間とは、カペタの走りを支えあう存在として共に成長することになります。

チームスポーツには支えあう仲間がいるもの。勝った人が喜ぶからこそ、一緒に戦った仲間も「また一緒に頑張ろう」と思える。だから、支えてくれた仲間のために、勝った人は喜ばなければいけない。というエピソードです。

こういう話が好きだからなのか、私はモンテディオ山形の選手達がガッツポーズやゴールパフォーマンスをしたり、試合後に勝って大喜びをするのは大歓迎だし、むしろもっともっとやろうよと思っているくらいです。ましてやどこかの解説者の「ガッツポーズは無礼」などいう発言にはどうしても首を傾げてしまうのです。

そしてその喜んでいる瞬間の一番オイシイ場面を切り取って、写真や記事で皆様に伝えていくのがメディアの役割です。試合に勝って喜んでいる瞬間、ゴールを決めて喜んでいる瞬間、どれも伝え甲斐のあるもの。自分もメディアの端くれとして、そういったオイシイ姿を少しでも皆様に届けられていれば嬉しい限りです。

話は変わりますが、先日の天皇杯2回戦ザスパクサツ群馬戦ではピッチの脇で公認ファンマガジン用の試合写真を撮っていました。試合は御存知のとおり前半だけで3-0という展開。となると後半は思う所があってベンチ脇のサイド側からある写真を狙って待ち構えました。

同じように何かの匂いを嗅ぎつけたのか、ベンチ脇のサイド側に椅子を置いたのはオフィシャルHPなどにも使うクラブ用の写真を撮っているオフィシャルカメラマンさん。2人の狙いは一致していました。

「林選手が決めたら絶対にゴールパフォーマンスしながらこっち(ベンチの方)に来ますよね」

そう、ここで林陵平選手がゴールを決めてパフォーマンスをしながらベンチの方に来てくれれば、カメラ2台が頑張って正面から写真に収めて、皆様にその勇姿をお届け出来るのです。

そして迎えた89分、ついに林選手がダメ押しとなる5点目のゴールをヘディングで決めました。「よっしゃ!」とレンズを向けた我々をよそに、彼はそのまま逆方向のバックスタンド側へと走り出し、我々はなにやらパフォーマンスをしている林選手の後ろ姿を収めることになりました。

いや、いいんですホント。ゴールを決めてくれるのが一番だし、天皇杯とはいえ5点も取って勝てて皆喜んでいて本当になによりなんです。ゴールシーンなどもそうですが、狙った写真が撮れなかったなんて、しょっちゅうあることなのです。もったいなかったけど。

「イタリア代表のキエッリーニです」と話す林選手の囲み取材を、自分はちょっとだけ複雑な表情で聞いていました。

本人もチームも現地のサポーターも皆すごく喜んでいて本当に素晴らしかった試合。でもそれを伝えたいと思っていたカメラだけが、オイシイ場面をひとつ撮り逃して複雑な気持ちになってしまった、そんな話でした。本当は自分ももっと喜ばなければいけなかったんですけどね。

これからも自分の腕でどれだけのものが撮れるかわかりませんが、林選手のゴールとゴールパフォーマンスもまた狙おうと思います。

【嶋守生(Dio-maga)】しま・もりお。山形県東村山郡山辺町出身。モンテディオ山形ファンマガジンRushでメインライターを務めているフリーランスのフットボールライター。モンテディオ山形ゴール裏の元住人で、サポーターの目線とクラブやチーム側の目線の両方を持つことがモットーのサポライターを名乗る。J1に初挑戦した09年から執筆活動を行い、試合によっては試合写真の撮影も行っている。