「別に何でもないですよ。記者の質問に答えただけでしょう?」
小屋松知哉はクールだった。J12ndステージ第12節・アルビレックス新潟戦、途中出場から守備的な役割を主にこなし、19試合ぶりの勝利に陰ながら貢献。その効果的な働きにジュロヴスキー監督も「小屋松は若手の素晴らしい選手だ。今後も期待したい」と褒めちぎった。そのことについて聞いてみた際の答えが冒頭の一言である。新潟戦でのパフォーマンスについても、やはり控えめに振り返る。
「今のところはコンディションも悪くないです。監督の戦術は理解はしていますけど、なかなか実際にはどうなるのか、相手がどう来るかという部分もありますしね。新潟戦では攻撃での指示も受けていましたし、2点目も狙っていました。でも試合の中に入ってみての感じ方や、勝利の大切さを考えて、チームが守備的になっていた。そこに自分も順応していった感じでした」
よくよく聞けば成長を感じるコメントでもある。3年目の21歳、しかもアタッカーならば、もっとガツガツしていてもいい。チームの状況は理解していても、攻撃の選手である自分を入れたならば仕事は攻撃だ、と考えていても不思議ではない。だが小屋松はチームプレーに徹した。自らの持ち味を消してまで勝利に貢献したその判断は、結果的には吉と出たからだ。
先日、トヨタスポーツセンターには業務のためにクラブOBが来ていた。2014年で現役引退し、現在クラブのホームタウン担当である中村直志さんだ。中村さんは現役時代から小屋松と懇意にしていた一人。「何か波長が合うんですかね、入ってすぐのキャンプからナオシさんと同じテーブルで食事をしていました」と小屋松も慕う良き先輩だ。その中村ホームタウン担当に聞くと、「少しずつですけど、成長していますね。新潟戦はね、守備でよくやってたけど、あそこであんな簡単なファウルをしちゃダメって言っときました」とのこと。この日もクラブハウス内でかなりの長話をしていたが、「いやいや、知哉が僕の隣にドカッと座るから。話を『させていただいた』だけですよ」と実に楽しそうだった。
こうして確かな成長を内外に感じさせる小屋松だが、もちろん貪欲な部分も持ち合わせている。新潟戦を踏まえての今後の戦いについても意欲的だ。
「新潟戦ではまずは守備をしっかりすること、そして同サイドのコバくんとのコミュニケーションをしっかりとることを監督から言われました。そしてスペースにスプリントして攻撃に推進力を出していけと。基本的にスプリントの部分はいつも言われることですね。得点を取りに行けと言われます。途中から出るかもしれないという気持ちで今はいますし、やっぱり攻撃の部分でチームのためになることをしたいです。今季はチームの得点も少ないですし、追加点、決勝点といった、得点の部分で仕事をしたい。途中出場の選手が流れを作ったり、流れを変えたりしないと、出る意味がないですからね」
守備面での成長はあくまでプレーの幅の範囲内であり、やはり小屋松の本分は得点を奪うことである。思えば今季は「迷走」という言葉で自身の状態を表現するほど悩んだ時期もあったが、今はすっかり吹っ切れた様子。それには最近よく口にする「今はコンディションも良いですし」という言葉も影響している。以前、小屋松は「僕みたいなタイプはあまり考えないでプレーしてしまうので、コンディションは大事なところでもある」と話していた。天才肌だからこそ動ける体をという考え方は、現在のパフォーマンスにもつながっているところで、いま彼自身が最も気を使っている点でもある。
ただし、小屋松は続けて「ベテランの選手はコンディションが良くなくても一定以上のパフォーマンスを出す」とも話し、小川佳純の名を挙げて「一喜一憂しない」とメンタルコントロールの大切さを痛感してもいた。感覚でプレーしていた選手が考えてプレーすることの大切に気づき、実践したこと。それが小屋松の最も成長した部分なのかもしれない。
「自分に求められることをやりたいです。あとは…試合に出たらわかりますよ!」
こう言って快活に笑った小屋松。守備だけでなく、攻撃でも違いを見せる活躍に期待ができそうだ。
【今井雄一朗(赤鯱新報)】いまい ゆういちろう。1979年生まれ。2002年に「Bi-Weeklyぴあ中部版」スポーツ担当として記者生活をスタート。同年には名古屋グランパスのサポーターズマガジン「月刊グラン」でもインタビュー連載を始め、取材の基点を名古屋の取材に定める。以降、「ぴあ」ではスポーツ全般を取材し、ライターとしては名古屋を追いかける毎日。09年からJリーグ公認ファンサイト「J’s GOAL」の名古屋担当ライターに。12年、13年の名古屋オフィシャルイヤーブックの制作も担当。