グランパスとの契約終了 5歳から名古屋一筋の森勇人は、次なるステージを信じて待つ|コラミィ× スポーツ

今季の名古屋グランパスの契約満了選手の中で、最も意外だったのが森勇人だった。21歳と若く、しかも5歳からの育成組織出身の選手を、わずか3年で手放してしまうことには残念に思う気持ちしかない。ジュロヴスキー前監督からは評価されていたテクニシャンであり、プロ3年目にしてようやく持ち味をピッチで出せる兆しが見えてきた矢先でもあった。リフティング技術はフリースタイルの選手顔負けで、オン・ザ・ボールの動きはチーム内でも上位。チーム事情から本職のトップ下で起用されることがほぼなかったことが、彼にとっての最大の不運だった。
 
その森にとって、オフシーズンのチームトレーニングは新たなキャリア構築のための重要な鍛錬の場となっている。スタッフも選手もなかなかに集中しにくい状況下の練習となっているが、森の動きは実に軽快だ。テーマは「シーズン中と同じ状態で」。彼の中ではシーズンはまだ終わっていない。
 
「最近の練習では、まずはコンディションを落としたくないということを意識しています。そのために動きの量とか、スピードとか、できるだけシーズン中の練習と変わらないように、気持ちの部分も含めてやろうと思っています。コンビネーションとかはチームメイトあってのことなので、合ったり合わなかったりはあるけど。紅白戦も間延びしてしまうし、でもその中でも、自分がボールを持った時には、良いプレーと言うか、良さが出るプレーをしたいなと。次は絶対に違うチームに行くって決まっているわけだから、ゼロからのスタートなので、そこで自分の良さが出せないと。“オレはこういう選手なんだ”っていうのが見せられないとダメだと思うんです」
 
「その中で、チームや監督によってやってはいけないことは違ってくる。そこを擦り合わせたい」と森は言う。では彼の思う“自分の良さ”とは何か。それは名古屋で見せられなかった、本来の姿である。
 
「やっぱり自分は前を向いて仕掛けられれば、止められる人は少ないって思っちゃってます(笑)。でも公式戦は前線の選手として出ていないし、どれぐらい通用するのかもわからない部分が大きい。でも、そこは持ち味だって自分でも思っているし、それがダメならワンツーとか、逆サイドに展開することだってできると思う。前を向いて勝負できるってところは、誇示していきたいところですね。自分は前線の選手として見てほしい、その思いは確実にあります」
 
 
サイドバックから始まり、ボランチ、サイドハーフなどいくつかのポジションで試されてきた森だが、なぜかトップ下での起用は少なかった。テクニックがあり、心肺機能も高いことがある意味では災いし、前しかできない選手に代わってチーム事情をカバーしていたこともある。愛するクラブのためにと自分を殺してきた結果だが、今後はその心づもりはないという。
 
「今まではやっぱり、チーム事情や選手構成の中で、ターンオーバーするために後ろのポジションで使われたりもしました。明らかにFWしかできない、それが特長の選手が多いチーム構成だったので、そうなるとオレみたいな選手がそこをやらざるをえないところがあったけど、本当は前をやりたかった。真ん中の、前で。そこは自信を持っているポジションだし、オレならこうするのになって、公式戦でのチームメイトのプレーを見て思うところはたくさんありました。次のチームでは、そういうところで勝負したいですね」
 
 
しかし、公式戦出場が今季はナビスコ2試合、リーグ戦ではベンチ入りが1度のみ。通算でもナビスコ4試合、天皇杯1試合の出場記録しか持たない選手の移籍先探しは難しい。森もそれを理解しており、12月のJリーグ合同トライアウトの申し込みだけは済ませてある。参加しなくて済むのがベストだが、自ら可能性を狭めるつもりもない。気合十分のオフシーズントレーニングは、そのための準備でもある。
 
「次のチームを選べる立場にはないということはわかっています。欲しいと言われることの方が少ないとも思います。試合に出ていないですから。そういうチームがあれば本当にうれしくて、そのチームに加わるだけです。そうじゃなくても、文系か理系を選ぶか、みたいなそういう大きな選択肢くらいは持てるとは思うんです。オレみたいな選手は、どちらかといえばつなぐチームなんだろうなとか。代理人の人もそういうことでは探してくれているみたいです。トライアウトも一応、申し込みはしておきました。その前に決まるのが一番良いんでしょうけど、それを受けるということに対して抵抗もありません。自分のプレーを見てもらう機会として、ポジティブに捉えてはいます」
 
決して表には出さないが、不安なのは本人が一番だろう。「試合に出ていないから」と何度も繰り返した言葉の端々には、プロサッカー選手でいたい熱意と己の立場の不確かさが滲む。だが、彼は信じて待つ。そもそも、今でも暇があれば近所の公園でひとりボールを蹴るような男である。正真正銘のサッカー小僧を、サッカーが見放すわけがない。
 
「どうなるかはわからないけど、周りの人を信じていますよ。クラブも、代理人も。だから自分はケガをしないで、コンディションを100%に近い状態に維持して、トライアウトでも、練習参加でも、その時のために準備して。決まったら次のシーズンに向けてゆっくり休めるようにしたいです」
 
願わくば、森勇人に次なるチャンスが巡らんことを。そして今度こそ、彼の素晴らしいテクニックが発揮される舞台が、与えられんことを。
 
 
【今井雄一朗(赤鯱新報)】いまい ゆういちろう。1979年生まれ。2002年に「Bi-Weeklyぴあ中部版」スポーツ担当として記者生活をスタート。同年には名古屋グランパスのサポーターズマガジン「月刊グラン」でもインタビュー連載を始め、取材の基点を名古屋の取材に定める。以降、「ぴあ」ではスポーツ全般を取材し、ライターとしては名古屋を追いかける毎日。09年からJリーグ公認ファンサイト「J’s GOAL」の名古屋担当ライターに。12年、13年の名古屋オフィシャルイヤーブックの制作も担当。