文=ロサンゼルス在住ライター 鈴木淨
『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』のヨーロッパプレミアにて
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ジョージ・ルーカスが黒澤明監督の作品群に多大な影響を受けて「スター・ウォーズ」シリーズを生み出したことは今さら言うまでもないが、今回は新刊書籍を含むアメリカのメディアがこれについてどう伝えているかを紹介したい。
今年8月に全米で出版されたマーク・クラーク著“Star Wars FAQ”には、オリジナル作品『スター・ウォーズ』(1977)が製作されるまでの経緯が詳細に綴られている。これによると、70年代前半にルーカスが執筆した同作の脚本草稿は、ほとんど黒澤映画『隠し砦の三悪人』(58)のSF版リメイクのような内容だった。彼は一時、日本の東宝から『隠し砦の三悪人』のリメイク権を購入しようと本気で考えたという。そして、この草稿段階では主役でなく60代の伝説的戦士だったルーク・スカイウォーカー司令官の役を、黒澤映画における自身のアイドルだった三船敏郎(当時50代半ば)に依頼したいとも思っていた。
また74年にルーカスが仕上げた脚本第1稿では、主人公の名前が「アキラ・ヴェイラー」となっている。彼の黒澤明への敬意と愛情がどれだけ深かったかがうかがい知れる。
その後多くの改訂を経て物語は出来上がった映画に近づいていき、脚本が完成する前に俳優の選考がスタートする。この時点で、ルーカスは実際にベン・ケノービ役を三船敏郎にオファーした。だが三船はこれを断る。J・W・リンズラー著“The Making of Star Wars”によると、ルーカスは「もしミフネがOKしていれば、僕は姫(レイア)の役も日本人に変更していただろう」と語ったという。この時、三船がオファーを受けていたなら「スター・ウォーズ」シリーズ全体が大きく様変わりしていたことになる。夢のようでもあり、ちょっと想像するのが怖いような話でもある。
結局ベン・ケノービ役に決まったイギリスの名優アレック・ギネスは、ルーカスにとって2番目の候補だった。
ミレニアム・ファルコンも健在。『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』
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黒澤映画と三船が与えた影響は、オリジナル作品のそこかしこに見て取れる。モス・アイズリーの酒場で酔っ払ったお尋ね者にルークがからまれ、間に入ったケノービがこの男の腕を切り落とし、銃を持ったまま切断された腕のアップで終わる。このくだりは『用心棒』(61)で三船演じる主人公が剣の技を見せつけるシーンに酷似している。またデス・スター内でミレニアム・ファルコン号の甲板の下にルーク、ハンらが隠れる部分は『椿三十郎』(62)で三船扮する三十郎が侍をかくまう場面を元にしている。これら日本でもよく知られた話は、もちろんアメリカのファンやメディアの間でも同様に語り継がれている。
おなじみC-3POとR2-D2。『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』より
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最も有名なのは、C-3POとR2-D2が『隠し砦の三悪人』の農夫、太平(千秋実)と又七(藤原釜足)をモデルにしているなど、オリジナル作品には同作へのオマージュが多い(そのほかのキャラクターや冒頭とラストのシーンを含む)という話。これについてはルーカス自身が2001年に米映像配給会社「クライテリオン・コレクション」のインタビューで、「脚本を執筆し始める時、『隠し砦の三悪人』を思い出した。僕が心を打たれ、本当に興味を持ったのは、この映画のストーリーが身分の低い2人の登場人物によって語られるという事実だった。これは『スター・ウォーズ』に使えるいい方法だと思ったよ。クロサワがしたように、身分の低い2人のキャラクターの視点で物語を進めようと決めた。『スター・ウォーズ』の場合、それは2体のドロイドだ。これは最も大きく受けた影響だった」と話している。
『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』で登場するBB-8
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ルーカスは、南カリフォルニア大学で映画を学んでいる間に黒澤映画と出会った。同じインタビューの中で、彼は「完全にハマった」とその衝撃を回想している。先に挙げた作品や『羅生門』(50)『七人の侍』(54)など、特に戦国時代を舞台とした時代劇にのめり込んだ。「スター・ウォーズ」シリーズの「ジェダイ」が「時代劇」という言葉の響きに由来していることも、”Star Wars FAQ”など多くの文献に記されている。
ライトセーバーで戦うカイロ・レン。『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』
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こういった影響はシリーズにとって重要な武器、ライトセーバーにも表れている。最新作『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の公開前後には、アメリカのありとあらゆるメディアが同シリーズの特集を組んだが、その中でも個性的だったのは12月15日にスポーツ専門局「ESPN」が放送した、日本の武道である剣道とライトセーバーの関係性に焦点をあてたドキュメンタリー“Star Wars: Evolution of the Lightsaber Duel”だった。
マーク・ハミル(ルーク・スカイウォーカー役)が司会を務め、「ライトセーバーの戦いのために剣道を学んだ」と語っているほか、ルーカスら名だたる関係者が、このジェダイの騎士の剣による決闘が黒澤監督の時代劇を元にしていると証言(2002年の『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』には、ライトセーバーを持った大勢のジェダイによる、戦国時代の合戦のようなシーンも登場する)。また、特にルーカスが監督した『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』(99)から『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』(05)のライトセーバーの戦いには、剣道の要素が色濃く反映されたと紹介されている。
12月16日ロンドンで開かれたヨーロッパプレミアに登場したジョン・ボイエガとオスカー・アイザック
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そして終盤には『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』のJ・J・エイブラムス監督が登場し、「(最新作にも)剣道の要素を取り入れている」と明かした。黒澤映画から剣道まで、日本文化との縁の深さを感じながら最新作を見ることは、また格別の映画体験となるのではないだろうか。
『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』
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『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』 全国一斉公開中
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
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