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「世界最速の美術館」といったところでしょうか。この春、芸術鑑賞ができる新幹線「現美新幹線(GENBI SHINKANSEN)」の運転が開始されます。越後湯沢~新潟間を走行するこの高速鉄道は、6両全てがアート空間という編成。絵画・立体・写真・映像・テキスタイルなど、様々な作品を展示し、さらにはカフェも車内に併設されるとのこと。現代アートを鑑賞しながら、ティ―カップ片手にスイーツをいただく…。ただの移動時間が、何とも優雅なひと時になりそうです。 列車外観も、通常の新幹線とは違い、非常にカラフル。車体全体をキャンパスに見立て、「長岡の花火」をイメージしたのだそうです。このデザインを担当したのが、蜷川実花です。
■蜷川実花とは一体、何者なのか?
彼女がメディアで紹介される時、多くの場合「写真家の蜷川実花さん」「写真家で映画監督の蜷川実花さん」となります。写真家・映画監督としての印象が世間的には強いからでしょうか。 しかし、その実、活動内容は多彩。写真家、映画監督をはじめ、アーティストのPV監督、CDジャケットのプロデュース、本の出版、オリンピック・パラリンピック組織委員会理事、そして新幹線の外観デザイン…多方面にその才能を発揮しています。そんな蜷川実花とは一体、何者なのか? ここでは彼女の来歴と共にその作品群を振り返り、「マルチクリエイター・蜷川実花」の魅力と人柄に迫ります!
■斬新な色使いが持ち味
彼女が手掛ける創作物の特徴といえば、斬新な色使い。ミュージシャンのジャケ写だろうが、アイドルの写真集だろうが、強烈なまでに彼女の色に染まります。ビジュアルに違和感を感じて、クレジットでその名を確認。「あ~、やっぱり、蜷川実花か」と納得するまでが様式美です。 その独特なデザインセンスが脚光を浴びるきっかけとなった出来事は、1996年に遡ります。当時、撮影機材のコンパクト化に伴い、若い女の子たちの間でカメラを持ち歩き、気軽に写真を撮ることが流行していました。通称「ガーリーフォト」というムーブメントです。この時、24歳の蜷川は「ひとつぼ展」という写真展に応募し、見事、グランプリを獲得。プロのフォトグラファーとしての第一歩を踏み出し、翌1997年には初の個展を開いています。
■大島優子が脱いだ理由
彼女のアートワークにおいて、個展と同じくらい初期のころから現在にかけて継続的に行われているのが、写真集の撮影です。芸能人を被写体にしたものも多く、2002年の木内晶子を皮切りに、2015年の斎藤工まで、様々なタレントと仕事をしています。 その中でも最近話題を呼んだのが、大島優子写真集「脱ぎやがれ!」です。表紙を飾った、上半身に何もまとわず両手でバストを覆い隠すショットは、世間に鮮烈な印象を与えました。 この写真集制作に関して、こんな裏話があります。AKB48の楽曲「ヘビーローテーション」でタッグを組んだ大島のことを熟知した蜷川は、彼女がリラックスして撮影に臨めるよう、何と、スタッフからロケ地まですべてを“大島優子仕様”にプロデュースしたというのです。特に人選にはこだわったようで、気持ちよくブラを外せる、空気を読めるスタッフを登用したとのこと。その甲斐あって、あのナチュラルな一枚が撮れたのでしょう。
■女優たちが素になれる人柄
このように女性の素顔を撮るということにおいて、蜷川実花の右に出る者はいないのかも知れません。それを象徴するのが、2007年に蜷川監督の映画『さくらん』が公開されるときに行われた、主演の土屋アンナとのインタビュー。 「この映画に出て、ラブシーンを撮った女優さんは、みんな『実花ちゃんが撮るなら』言ってたもんね。」とは土屋のコメント。2012年に公開された『ヘルタースケルター』でも沢尻エリカが初のヌードになったことからも分かるように、蜷川には、女優が普段見せない姿をレンズの前に晒してもいいと思わせるような、関わりやケアができるのでしょう。
いかがでしたでしょうか? 様々な仕事が彼女の元に舞い込んでくるのは、そのクリエイティブ力の高さはもちろん、制作現場で見せる気配りや、仕事相手から好かれる人柄があるからでしょう。彼女が創り上げた彩り豊かな世界の中で、伸び伸びと魅力を発揮するタレントたちを見ていると、そう思わずにはいられません。
●文 ロックスター小島