マンUの再建を託されたモウリーニョ監督 写真は2015年5月26日(Getty Images)
“特別なクラブ”と“スペシャルワン”が、ついに手を組んだ。マンチェスターUが、自らを特別な存在と信じる名将ジョゼ・モウリーニョ氏へ名門復活を託したのだ。
「長期政権に向かない」「若手の育成に消極的」「クラブの雰囲気・伝統に合わない」。モウリーニョ監督に向けられる否定的な見解は、この3種類に大別される。確かにその通りだ。
しかし、現在のマンUに必要なのは、品行方位で育成に長け、長期政権を築くタイプだろうか。今求められているのは、失った権威を取り戻すための特効薬ではないか。例えそれが“劇薬”であったとしても。
モウリーニョ監督は就任早々「ここには、ほかのクラブとは比較にならない神秘とロマンスがある」「ファンが私に期待しているのは『私は勝ちたいんだ』というコメント、選手たちが聞きたいのも『勝ちたい』という言葉だと思う。もちろん、実現できる」と、力強く宣言した。
■名門復活は赤い悪魔の義務
リーグ優勝20度、欧州制覇3度を誇る赤い悪魔は、優勝を義務付けられたクラブだ。3シーズン連続でプレミアリーグ制覇を逃した今、最も必要なものは結果。このタイミングでの優勝請負人の招聘は、理にかなった選択と言える。
「クラブの雰囲気・伝統」とは抽象的な表現だが、勝利への意欲を前面に出して「勝つこと」が、本来の“マンUらしさ”ではないだろうか。その姿勢が幾多の名勝負を生み、夢の劇場を、「神秘とロマンス」が溢れる特別なスタジアムへと成長させてきた。
もちろん選手は勝利を望んでいるはずだが、ルイス・ファン・ハール監督の率いたチームから、アレックス・ファーガソン監督時代のような勝利への執着心は感じられなかった。なんとなく試合に臨み、勝ったり負けたりを繰り返した結果が、今季の5位という結果だった。
本拠地「オールド・トラフォード」の目の肥えたファンは、カップ戦のタイトル1つで満足しない。チャンピオンズリーグへの復帰、プレミアの覇権奪還は、至上命題だ。
■勝利が必須なのはモウリーニョ監督も同様
モウリーニョ監督も同様に、勝利を必要としている。
「オールド・トラフォード」の空気を好敵手としてつねに感じていたポルトガル人指揮官が、マンUへの憧れを抱いていたことは周知の事実。ディエゴ・トーレス著『モウリーニョ vs レアル・マドリー「三年戦争」 明かされなかったロッカールームの証言』によれば、2013年にファーガソン氏の後任に指名されなかったことで、モウリーニョ監督は号泣したという。
その後モウリーニョ監督は、蜜月のチェルシーと“復縁”。2季目にプレミアとリーグカップ(キャピタルワンカップ)の二冠を達成したが、またしても3年目の壁に阻まれ、わずか2シーズン半で事実上の解任に。長期政権の目標はもろくも崩れ去った。
ロンドンを追われた名将が雪辱に燃えていることは、想像に難くない。まして新たな舞台が3年越しに思いを叶えた憧れの地とあれば、モチベーションは最高潮に達しているだろう。
■失われた神秘とロマンスを求めて
負けたままでは終われない──。両者の思惑が合致した。
失った威厳は、勝利を通じてしか取り戻せない。復活を義務付けられた名門と、再び自身の価値を証明する必要に迫られた名将。両者が手を組むのに、今ほど相応しいときはない。